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水戸地方裁判所 昭和28年(行)8号 判決 1953年10月06日

原告

坂東太

被告

水戸市長

被告

須藤順

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

原告訴訟代理人は「(一)原告と被告水戸市長との間において、同被告が別紙目録記載の建物につき昭和二十八年二月二十三日なした公売処分は無効であることを確認する。(二)被告須藤順は別紙目録記載の建物につきなされた昭和二十八年二月二十八日附公売に因る所有権移転登記(水戸地方法務局昭和二十八年三月七日受付第一二六一号)の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求めた。

被告水戸市長訴訟代理人及び被告須藤順はいずれも請求棄却の判決を求めた。

第二当事者の主張

一、請求原因

(一)  被告水戸市長は原告に対して課した昭和二十二年度事業税后期二千七百円、昭和二十三年度事業税后期二千八百十二円五十銭同割金百六十八円、昭和二十四年度事業税前期七千八百七十五円同割金千五百七十五円、同年度事業税后期七千八百七十五円同割金三百九十三円、同年度市民税后期千五百十三円、昭和二十五年度市民税第一期一万八百五十円、同第二期一万八百五十円、同第三期一万八百五十円、昭和二十五年度固定資産税第一期六百十円、同第二期八百十円、同第三期八百十円、同年度自転車税全期二百円、昭和二十六年度固定資産税第一期六百三十円、同第二期六百円、同第三期四百三十円、昭和二十六年度市民税第一期四千二百九十円、同第二期四千四百六十円、同第三期四千四百六十円、同第四期四千四百六十円及び以上各税に対する督促手数料二百十三円の滞納処分のため、昭和二十七年九月二十五日同市徴税吏をして原告所有の別紙目録記載の建物に対し差押をなさしめ、次いで昭和二十八年二月二十三日これを公売処分に付し、被告須藤は代金十二万円で右建物を買い受け、昭和二十八年三月七日水戸地方法務局受付第一二六一号をもつて公売に因る所有権取得の登記手続を経由した。

(二)  然しながら前記差押手続において徴税吏は滞納者である原告に対し差押調書謄本を交付した事実がなく、従つて原告に対しては未だ差押処分の効力が発生していないのである。それにも拘らず被告水戸市長は前記建物について公売処分をしたのであるから、この公売処分は有効な前提手続を欠く処分といわなければならない。このような手続上の瑕疵は重大且つ明白であつて公売処分は到底その効力を発生するに由ない。従つてまた被告須藤は右処分に因り前記建物につき所有権を取得するいわれはなく、右所有権取得登記の存することは実質上の権利関係に合致しない状態にあるものというべく、従つて被告須藤は原告に対し右登記の抹消手続をなすべき義務があるものといわなければならない。

よつて被告水戸市長との間には右公売処分の無効確認を求めるとともに被告須藤に対しては前記所有権取得登記の抹消登記手続を求める。

二、答弁

(一)  被告水戸市長の答弁

原告主張(一)の事実は認める。同(二)の事実のうち原告主張の差押について差押調書謄本の交付がなかつたとの点は否認する。差押調書の謄本は差押の日である昭和二十七年九月二十五日午后四時十分水戸市徴税吏飛田三郎及び同市雇員石川浩秋の両名が原告宅に赴き原告本人に手交したのである。その際受領印を貰えなかつたので、その場で予め携行した差押調書謄本交付簿に、交付年月日氏名等を記載の上それぞれ相当欄に捺印し、更に上司(水戸市税務課長)にその旨報告してその認印を得ている。凡そ差押調書謄本を交付する際は滞納者が受領の印を押すことを拒むこともあるので、当税務課においては前記交付簿に前記事項を記入して認印し交付の確実を期する取扱をして来たのであつて、右の場合もこの取扱例に従つたわけである。

(二)  被告須藤順の答弁

原告主張の(一)の事実は認める。同(二)の事実については、原告主張の差押について差押調書謄本の交付がなかつたとの点は不知。

第三証拠方法

原告訴訟代理人は甲第一号証を提出し、証人江幡勝夫、小沼潔、鈴木常男の各証言、原告本人尋問の結果を援用し、乙第一号証、第三号証の一乃至十八の成立は認めるが、第二号証の一、二の成立は不知と答えた。

被告水戸市長訴訟代理人は乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証の一乃至十八を提出し、証人飛田三郎、石川浩秋の各証言を援用し、甲第一号証の成立を認めた。

理由

請求原因(一)の事実については当事者間に争がない。

原告の被告水戸市長に対する本件訴における争点は訴外水戸市徴税吏が滞納者である原告所有の別紙目録記載の建物について昭和二十七年九月二十五日なした差押処分について右差押調書の謄本が同日原告に対して交付されたかどうかに在るのでこの点について審究する。

成立について争のない乙第一号証、証人飛田三郎、石川浩秋の各証言により真正に成立したものと認められる乙第二号証の一、二、並びに右両証人及び証人鈴木常男(後記措信しない部分を除く)の各証言を綜合すると、

水戸市徴税吏である訴外飛田三郎(水戸市税務課徴収係主任)は昭和二十七年九月二十五日予め同日同市役所において記入しておいた別紙目録記載の建物に関する差押調書の原本(乙第一号証)並びに謄本及び前記税務課備置の不動産差押調書謄本交付簿(乙第二号証の一、二)を携行、同市雇員である訴外石川浩秋(同市税務課臨時徴収係員)とともに別紙目録記載の建物の一部に居住する原告方に到り、右石川浩秋の立合のもとに右差押調書の謄本を原告に手交し、原本に受領印の押捺を求めたところ、同人は右謄本は直接原告において受取つている故押印の必要なき旨答えて受領印の押捺を拒んだので右飛田は持参した前記交付簿に所要事項を記載の上石川とともに相当欄に押印したことが認められる。証人小沼潔、鈴木常男の各証言及び原告本人の供述のうち右認定に抵触する部分は信用しないしその他右認定を覆えすに足る資料も存しない。そうすると前記差押手続には原告の主張するような違法は存しないのである。従つてこれに後行する原告主張の昭和二十八年二月二十三日別紙目録記載の建物についてなされた公売処分にもこの点に関する手続上の違法は存しないから、その無効確認を求める原告の請求は理由がなく棄却を免れない。次に、冒頭に指示したように被告須藤順が右の公売処分に因る前記建物の所有権取得登記手続を終了したことは当事者間に争がなく右公売処分に原告の主張するような違法がないことは前段に判断した通りであるから、右登記はこの点において実質上の権利関係と合致していないとはいい得ないわけであり、被告須藤が原告に対し右登記の抹消義務を負ういわれはない。そうすると被告須藤に対し前記登記の抹消登記手続を求める原告の請求も理由がなく棄却の外はない。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 多田貞治 森松万英 石崎政男)

(別紙目録省略)

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